痛みの部屋/加藤
下を向いて
話していた時の顔が
他人のような顔に思えて
それが辛いのに その時は笑っていた
笑ったことが一番辛かった
日々 からっぽになっていく
なぜかそんなふうに感じている
かけていた所は
加えられる物があるという喜びになり
みたされなかった思いが
わがままという強い力を初めて生んだ
窓際の風をあび
流れてくる風の音をよく聞こうと
窓から少し顔を出した
その横顔がまるで他人のような表情だった
でも辛くはない
私は笑わないで
ちらりと横目で見てため息をつく
この時間も この空間に流れる速度も
ゆっくりになっていく
それが確かに
今あるものだと信じていたい
ぼんやりと考えることもせず
夜を待ち このままゆっくり眠りたい
夢の中の台所で手を洗おうとじゃぐちをひねったら
どっと水が出たとたんにそれはさらさらと消えてなくなった
染みのないくらいまっ青な空があるなら
雲はいらない
雨も降らない
そんな一日は永遠にこない
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