六月三十一日/飯沼ふるい
 
意味と自身との両方に失望している。彼はわざとあの日のように静かに席を立った。
路上で空を仰いだ。飛行機が遠くを流れていた。しばらく日向を浴びていると、羽化せんとする原型のない蛹の意思を感じた。真っ直ぐな熱があった。
人を刺す、たったそれだけの冴えない背徳に何を期待していたのだろうか。しかし彼でないままに生きた彼は今や、他人、その差異、その意味を確かめなければならなかった。
人を刺さなければならなかった。私ではない物を抉る。抉られない私がここにある。その新しい熱。
金物屋はどこか探す必要が出てきた。彼はついに気付くことなかったが、それだけで久しぶりに生きている心地に満たされていた。


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