竹の秋/山部 佳
 
「土地と家の権利書を盗られた」
しまった場所を忘れたのだ
「炊いてあったご飯がなくなった」
自分が食ったのを忘れたのだ

忘却は、現在の妄想を生む

生きていたときには
あれだけ不満の涙をこぼした
母は呆けて生き残り
父のいいことしか言わなくなった

妄想は斑になって、時空を漂う

口の端から
米粒をぼろぼろ零し
御襁褓の中に糞を出す
その前に、と彼女は願う

過去も未来も栄誉も富も遠ざかる
現在の現実だけが残る

何もかも失くす…
よくある表現だが
これがまさにその状態だ
何もかも失くし、母は私を見ている

華やいだ季節の終わり
頭を出した筍が伸びる
それを、すっくと伸ばすために
竹は葉を枯らし、青嵐に揺られる

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