手紙/末下りょう
 

書き終わった手紙を読み返して捨てた
それを書き出すために書かれた一行がいかさまだった
さめたコーヒーを飲み干して
家並みに一滴、零す

静けさのなかを一台の車が走り去り、日付がカチッと変わる
失くし物がある、気がする
八月だったか
きみの瞳の色は覚えてる
きみの肌をひらく種子の色をしていた


肌寒い空気
きみからの手紙を読み返す
海辺ではぐれた子供の足の裏のような手紙を
だれかになろうとして明日を恐がったぼくを 、

きみは此処とはちがう海をみたいといった
だれかが鐘を鳴らし続けているこの町に火をつけて
手を繋いだら、一緒に逃げようと
きっと追いかけ
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