傾向と対策/末下りょう
の王だと確信され、朝の庭先に放たれた。
夜、真の、夜のなか、その女のすべてのドアと窓は開いていた
すべてのカーテンが開かれていた
女のなかは暗い
白も黒もない、(際立つ蜜の
カヲリを放ち、妖しく
暗赤の捕虫袋を膨らませ
袋の襟口をつたう獲物は
光る腺毛に運ばれながら
酸のなかにすべり落ち
スープに、分解する
虫ケラ)
女の小さな庭には、犬小屋があるが、犬はいない
女のまえで足をとめ、深爪の指でインターホンを押すが
なにも返事はない
物音が微かに聞こえてくる
汗が冷たくなる
月明かりもなく、帰るための道はない
いつもなにかを見落としている
蛍光灯の光のなかで
影から眼をそらすことはできない
リードを引きずる犬が横切る
アルビノの二十日鼠を
口に咥えて
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