ぼくは幸せである/殿岡秀秋
 

合気道の稽古で
左目を傷つけた
痛風の発作が
右の親指の付け根に出た
車庫入れのときに
自動車を壁でこすってしまった
黒皮の財布を失くした

それでもぼくは
幸せであると唱える

子どものころは
母に教わった
南無妙法蓮華経という題目を
困ったときに唱えた

信心をしない今
ぼくは幸せである
と唱えるのは
呪文の代わりだろうか

たくさんの不幸が
出番を待つ舞台裏を
のぞかないで
ぼくは幸せであると唱える

不幸な気分が黒子のように
退場する
赤い衣装をまとって
幸せな気分がせり上がってくる







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