Amekuri/Debby
 
がさすことはなかった。それはとても良いことだったと彼は思っている、自分は嫌気に対抗できる人間ではないから、と。
 豆腐を一丁と、少し張りこんでうまい鱈を買う。良い魚屋と良い豆腐屋が雨繰りの住む町にはある。空は曇り模様、雨が降るかは五分五分。さて、雨を眺めての湯豆腐と洒落込みたい。雨よ降れ、と彼は念じた。しばらくして、彼が家の鍵を差し込んだその時に雨が降り始めた。少し温みを含んだ春の雨だった。フローリングを転がる黒豆のような音を立てて、彼は降り始めた。

 雨が降ると多くのことを考えた、それは大体が他愛もないことだったり、あるいはもう取り返すことのできない失敗だったりした。繰り合わせは、少なく
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