春の果実/もっぷ
春の庭は公然の果実となった
うららかが市民権を得て手を振っている
春嵐の気まぐれな登場が
時々番狂わせだけれど
戸惑うことなくスプリングコートを
選んだこの日にも季節は私に謳歌を許した
飛び立っていった戸惑いの
軽いくしゃみだけが残って聞こえる
私もスプリングコート姿で手を振って
ほがらかを装ってみた
悲しみよさようなら、なのか
トランプゲームの手持ち札を隠すように
そっと胸の内を覗いてみれば
ほがらかは偽りだと知っていることが
こんなにも明らかなのに
嘘をつくことが心地良いのはなぜだろう
自分にも他人にも歓迎される嘘の
アリバイすら必要とされない
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