三月の子守唄/岡部淳太郎
は滞りなく進み、花の季節は何度も一回転し
ては元に戻り、あの時を思い出しはしても、
もはや心痛むことはなく、泣くこともなく、
ありし日のあなたの歩みを、ただ懐かしさと
ともに、思い出すだけだ。それは失ったこと
へのあきらめではなく、暗さのうらにある明
るさの、粗い素描のようなものであって、こ
れからそこに肉付けしてゆく、記憶。編みこ
まれてゆく、思い出。あなたよ、だからこそ、
眠れ
眠れ
とおに
亡き者よ
眠れ
遠くへ
遠くへ
いつか
誰もが
たどり
つく
遠くへ
そこ
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(9)