循環/藤原絵理子
赤血球のヘモグロビンが
その炭素原子を吐き出す
特別な意味を持った炭素原子
見知らぬ酸素原子にまとわりつかれて
二酸化炭素になって出て行ってしまった
あたしの炭素原子
どうして吐き出してしまったのか
父の精子が一生懸命泳いで
たどりついた母の卵子
その時からずっと
あたしの中にいたのに
ちょっとくらい体に悪くても
sp2混成軌道を作って
留まっていて欲しかったのに
あたしの炭素原子は
庭の桜の葉が吸い込んで
蕾の中のセルロースに組み込まれた
寒の戻りの冷たい風に
ぷるぷる震える枝の声が
懐かしい歌をうたうから分かる
花が咲いたら
桜茶にして飲むつもり
鳥に盗られないか気にかかる
今年の冬の終わり
戻る 編 削 Point(4)