故郷/東雲 李葉
 
山が恋しいのは情にほだされただけだと思っていた。見飽きたはずの雪の白を目を細めて慈しむ。
点々まばらな家々にさえ旅愁を覚え駅名にこの地の由来を尋ねる。
懐かしさはどこから来るのか。
山脈がどこまでも追いかけてくる。
帰るはずなのに早くも再会の約束を。
不便さを言い訳に自然を厭った。
そのくせ懐かしさを求めて親元を離れて来た。

もしかしたらもうどこにも帰れないのでは。

それでも構わないと思う。
鈍行列車で暮らすのも悪くないと思う。
ありもしない故郷を求めて根無し草でもいいと思う。
雪笠かぶった山頂は晴れやかに言い訳を見下ろしている。
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