三月の守宮(やもり)/草野大悟2
 
三月
守宮(やもり)は
たべる。

ゆっくり
ゆっくり
味をたしかめるように
たべる。

産まれつづける現実(うつつ)をおかずに
夢を
たべる。

くり返されてきた儀式が
ことしもまた始まった。

ぽつっ ぽつっ
音たてて桜が笑い
だれもいない赤茶けた風には
笑顔の影だけが
ただ、ぼんやりと
浮かんでみえる。

影は
とおいオレンジ
ぼくらの奥の
ずっとずっと
奥の奥まで
赤子のような手をうごかして
もそもそと這いより
明日(あした)を
たしかに
描いてみせる。

顔をなくした赤い満月
くっきりと
照らしだされた
シュール。

三月
守宮(やもり)は
また
時を従え
大空に飛び立つ。



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