蟄虫啓戸/nonya
蟄虫啓戸
すごもりのむしとをひらく
ギィっと
闇に穴が開くと
部屋は一瞬で眩しさに満たされた
クラっと
意識が旋回して
しばらく身動きが出来なかった
何の理由も告げずに
君が出て行ってから
開けたことがなかった扉
開けさせたのは
僕の意志ではなく
身体の真ん中でのた打ち回る
何かだった
オズオズと
眩しさの中へ這い出すと
煩いほどの匂いが方向を失わせた
ゴソゴソと
闇雲に動き回っていたら
心地良い何かが背中を撫でていった
キイキイと
なんとなく危険を感じる振動が
遠くから伝わってくるから
慌てて乾いた何かの下に身を隠した
ここには生きることの
喜びと恐れがすべてある
君が出て行った理由が
ほんの少し分かったような気がした
ようやく落ち着いたところで
無性に腹がへっていることに気がついて
手当たり次第に辺りの何かを食んだ
美味い
美味すぎて
左の4番目の足がつりそうになった
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