不安は詩の母である/殿岡秀秋
 
不意にこころに訪れる黒い種

夜道で
声をかけられる
ぼくの横隔膜が振るえ
喉まであがってきた声がつぶれる

職場で
背後から近づいてきて
落ち度を探る視線の先が
サンダルを履いているぼくの
足もとにくるのを
皮膚が感じとる

住む街で
出会いたくない人の
撒く水が
ぼくの気持ちにふりかかる

医院の待合室で
医師の治療ミスが
あるかもしれないと
手術跡の鈍い痛みをさする

家のソファで
横になって
独立した生命として
根をはろうとする病いと
からだの中の免疫細胞とが
戦を起こして熱がでる

ひとつひとつの黒い種を
心からとりだして
プランターにおいて
陽にあてて
水と養分を与えて
芽をださせて
毎日手入れをして
茎が伸びて
コトバの花が咲く

眺めると
気持が少し和らぐ















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