チイさい春/nonya
 

春がいる

駐車場の奥の
ハイブリッド車伝いに
ブロック塀の上に飛び乗った時
チイ子はそう思った

春がいる

朝の見回りで
ナワバリ荒らしのクロに
やられた三角耳がまだ痛むけれど
るんっと尻尾を立てて
チイ子は歩いた

やっぱり春がいる

とあるお宅の玄関前は
お気に入りの休憩スポット
ここの丸顔の奥さんには
「ミイちゃん」と呼ばれているが
チイ子はチイ子

ぜったい春がいる

放り出されたスコップの先から
ほんのりと若い土の匂い
鉢植えの上に残された雪の
照り返しは思いのほか眩しい

薄汚れた冬の毛並みを
丹念に毛づくろいした後
きっちりと前脚をそろえて
チイ子は目を細めた



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