猫の猫による猫のためのグランドピアノ/左屋百色
 
猫背の猫、
あたらしいグランドピアノ
その黒鍵よりくろいひかり
猫の、目の、奥がものがたる
誰も見たことのない、できない
猫の詩、
白鍵を選び歩く
猫の、足の、裏がかなでる
雪より白い
毛なみ
それより白い
猫の、現代の、詩について
まだ誰もよみとけない
、ふるびたグランドピアノ
近くに用意された水
舌をつけて
ひろがる
猫の、舌の、調律
雪より静かな音
猫の、耳の、とんがった
その三角
グランドピアノはねじれた三角
山の頂上で犬が吠え
イスの下で猫が眠る
高層ビルは崩れ
ざらざらした爆音に耳をやられ
さらにとんがった
猫の、現代の、詩について
もう誰もよみとけなくなった
かいたいされてゆくグランドピアノ
鍵盤の数より
はるかに多い
猫の詩、
最後に弾いた曲を
聴いた者はいない


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