「ちいさな錯覚」/泉由良
ちいさな錯覚
のぞんだものはちいさな錯覚
祝福も花束も要らないちいさな錯覚
それだけで良かったのに
ありふれた水も飲み干せてしまうような
不安定な曇りの昼下がり
虚無の色をした空が窓の向こうに拡がっている
帰り途で摘んだ野草をコップに生けながら
唇をちいさく動かす
のぞんだものはちいさな錯覚
のぞんだものはちいさな錯覚
夢ならば五秒で過ぎる風景が
一時間半以上も連なってゆく風景画
もしも誰かがここに居たなら
きちんと忘れられる筈の記憶が
独りぼっちの昼下がりは
罪滅ぼしという脅迫を名乗って
天井いっぱいになびく
卵を割ったら黄
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