水晶の砂時計/藤原絵理子
木立を抜けた風が
遠い町のざわめきを運んでくる
夕暮れの空が誘っている
踊りだす色の魔法で
ここちよく…あちらの世界に
ちくちくと心を刺す過ぎ去った風景
風に髪をなびかせながら
少年は自転車をこいでいるだろう
行くあてなどなくても
真っ白い夏雲が呼ぶかぎり
林越しに見るあたしの世界は
彼の目にはどう映るだろう
お利口な知恵で築きあげた
中途半端な塀の前で立ちすくんでいる
木立を抜けた風が
黄昏の香りを運んでくる
あたしはこの林を
通り抜けて行くことはできない
過去の方角から少年が呼びかけても
もうあたしは戻れない
町のざわめきはやがて
フィルターを通ったように静まる
残った通奏低音を満たすのは
折れた翼を捜す人の嘆き
木立を抜けた水晶の風に
砂時計の落ちる音が聞こえる
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