斜陽/マチネ
 
並んで歩く父と子が夕暮れの街を通り抜ける

父は子を見下ろしながら
子は夕陽を見上げながら

父は子供の頬を撫で
時折優しく指を沈める
その人差し指に伝わる
底がないような柔らかさと、ほんのすこしの空疎さに
瞼をあげて驚いてしまう

 本当にこの子はここにいるのか

おい
と子供に声をかけつつ
父は自分の頬肉に触れ
そこに膨らみがないのを知って
やすらぐような
淋しいような気分になる

 あらゆる指に圧縮されたこの子の頬だ(あるいは私の、)


  子供は呼び声すらも聞こえないように
  荒い繊維で作られた体の中の黒い瞳を
  絶えず夕陽に捧げている

父は頬から手をはなす

父の指が頬を離れて子供の小さな赤い手に触れ
子の指が子の知らない内に父の指へと巻かれていくのを
父の瞳の白い濁りがずっと見守っている、そんな日暮れ。
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