空にさよなら日記/八男(はちおとこ)
 

「なんだ、こんなもん、絵じゃないね。」
と、一蹴した。腹を立てたぼくは、
「じゃあ、荒島さん、なんか描いて見てよ。」
と、絡んでみた。猫を描いて下さいと言うと、荒島さんは二時間ほど腕を組んでいた。そして体を震わせながら一本の波線を画用紙の中心部に引いて手は止まり、
「駄目だー!」
と言った。
  猫にならなかったその波線は、ぼくの絵を遥かに凌駕する、絶品の波線だった。
  そんな一度の負けに挫折を感じ、それ以上絵を続ける基礎がなかったぼくは、描くことをやめた。 
  懐かしい。荒島さんの、あの波線の凄さは、誰にもわからないかもしれないが、またあの波線が見たい。あの、線を引くとき
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