ラグーナ/藤原絵理子
なんとはなしに気ぜわしい夕暮れ
劇場に向かう華やいだ人々の甲高いイタリア語
船着場に打ち寄せられたのは老いて死んだカモメ
ひたひたと岸壁を打つ波音だけの静寂
午後には特別なミサがあった
オルガンは穢れない天使のうたを歌った
神父は美しい言葉で形而上学的な愛を語った
会衆に混じってあたしも肉体を放棄した
今夜は広場が潮で満たされる
船着場の静寂は白くくすんで漂ってくる
眼は閉じたまま 翼はたたんだまま
こちら側にいるあたしは
ロールピザの売り切れに落胆し
ぼったくりのウエイターに腹を立てる
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