イルシスカー −BWV535/藤原絵理子
そんな厳粛なものではなかった
壮麗な教会のどこか枯れた香りではなく
天に召されようとする生身の横たわる部屋は
真冬でも蠅が飛び交いそうな腐臭に満ちていた
‘なにかがおかしい’と疑いながら
週末になれば娘夫婦が孫を連れてやってくる
月末には下手な仲間が集まる撮影会
なんの変哲もない明日を疑いもせず
‘あなたがこの世界からいなくなっても
あたしは笑えるし感動することもできる’
どこか別の場所に身を置いたように考える
そして生きているあたしがつぶやく
‘死とは
生者よりもはるかに多い死者の仲間に入ることなのだから
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