北の亡者/Again 2014睦月/たま
奥穂岳の山頂の近く、何故か人の頭ほどの丸い石が、稜線から視界の途絶えた沢に向かって敷き詰められていた。その川原のような稜線に花束を添えて仲間とともに深く黙祷を捧げた。
夏山の爽快な青空の下、汗と涙が滲み出てやむことのない山行だった。私の北アルプスはそれが最後だった気がする。
詩を書き始めたのは結婚をして冬山から遠ざかり始めたころだった。山にまつわる想い出はたくさんあっても、私は山の詩を書くことはしないし、この先も書くつもりはない。山行は現実の詩の世界であって、それ以上の詩は存在しないと思うからだ。今、生きている私が書くべきことは例えそれが観念の世界であったとしても、未来へと続く「今」なのだと思う。そうしてそれが、熊ちゃんとの約束であり、私にできる最善の追善なのだという思いがある。
「北の亡者」を書き始めた頃、山を離れてもやはり冬が来ると雪山が恋しくなる私は、妻と、も吉を家に残してスキーバスに乗車したが、何故か、軽いザックを背負って、気分は山スキーだったのだ。
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