閑情/織部桐二郎
めぐり来たれる冬の色
凍れる風に導かれ
衢閉ざしつ染めゆきぬ
ものみな重く睡りたり
想ひ出づれば夏の日の
陽光のなか戯れつ
幸いに充ち倶にあり
過ぐせし頃の束の間に
わがまなかひに影さして
心やわびし夜の宿
ロシヤ紅茶にひと時を
和まむとてもあだなれや
さるからに夜天の星の
彩なせる無窮の光
わが魂に語りかけたり
ロシヤ紅茶を更に替へ
沈思のさなか古書ひらき
忘却の独逸詩聖が春の歌
誦しつ想へる花の頃
あなこの春の如何ならん
ロシヤ紅茶に巻菓子を
そへつ詩人が息吹きく
なじかは知らねわが心
春の光ぞ満ちそむる
冬は戸外に垂れ籠めて
あたりはすべて凍てしかど
春にわが魂あくがれつ
花の苑生に安らへる
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