雨を想う/白雨
 

報われぬかなしい思いをする
ふたりは永遠に雨のなかで悶え苦しむ
そしてこどもの顔がシロップのなかに凝固する
せき止められた夕焼けが
天空で火の粉になって
倫敦に幾万のペン先を降らせる
1666年のように
惨禍が文明を刷新する
この骰子賭博は誰がはじめたのか
僕は 
この雨にみたび肩をたたかれ
はっとして振り返って
見事に肩透かしを喰らい
ペン先の雨を
この偉大な災難を
畏れまた憎み
ふたたびあらわれて胸ぐらをつかむことを
切に願うのだ
近代文明の石の堅さよ
うかつな召使の偶然性よ
ずっとずっとずっとずっと
僕は雨を眺めている
こうして雨が
冒しがたい生物学的な遺伝学的な
何ものにも替えがたい手のひらの痺れを
ペン先のつよい硬度で
刺激し貫き通すのを
ひたすら待ち
窓を開ける




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