沈みゆく夕刻/白雨
 
少女の細い細い手首の糸
静脈の清流を
机の上に広がった乾燥しかかった薬品が流れる
かえるさきは循環する心臓の末端
そこはフランスとスイスの国境で
ちょうどこの鐡道の糸の終着点
窓辺には革表紙の本を午後4時の光線がAとBに分ける
文字の凹凸が黄金の金環を授かり
紙の上の田園地帯が夕暮れの吉兆を予感する
一日でいちばん美しい時間、
物語が終わり、あたらしい物語のはじまる
秒刻に沈みゆく万華鏡を
つめたい指先が
遠く窓のさき
もうひとつの清流を
そろりそろりと
なぞりはじめる


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