ノート/寒雪
そのままぼくでいると
なんだかなにかが足りない気がして
こぼれないように
あふれだし過ぎないように
カビの生えたノートに
書き殴ったたくさんの文字
そこにたくさんのぼくが
かくれひそんであとで見返しても
やっぱりそこに文字が
顔を出してほほえんでくれるよう
こころをこめて
書き連ねたたくさんの文字
おもいだしてページを
ひらいてながめていると
こぼれおちた鼻水の
透明さが文字ににじんで
書かれたことばを
ぼくの手のとどかないところまで
吹き飛ばして
するとそこからつぎつぎと
文字の意味がぼくの目のまえから
どんどんいなくなっていく
文字たちは変わらなくても
すっかり軽くなったノートが
したり顔で机の上に
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