鏡の世界で/まーつん
 
 愛を映す鏡に
 己を見た者はいない

 けれど、
 もし、いたとしたら

 その人は
 どんな姿を
 していたろう?

 イエスや、仏陀の姿を
 多くの人々が、想像しては
 絵に描き、彫刻に刻んだ

 人は外見じゃない
 中身だ、という
 昔ながらの、諭しの声も

 全ての人の外見が、
 ショーケースに飾られて
 値付けされるのを待っている
 この世界では、空しく響く


 愛を映す鏡


 それは
 この世界では
 無用の長物だった
 時々、そう思えてくる

 その鏡を
 曇らせる吐息は
 寂しさや、欲望から
 膨らむ自我の
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