すき/消しゴム
 

 君はまだおんなのこだから・・・

 帰り道 
 ぽってりふくれたくちびるに
 まっかにそまったほっぺたに
 冷たい流れに逆らいながら
 煌々と光るネオンの海を二輪車で泳いでく。

 3色の満月が青く点滅して赤くなる
 君は泳ぐのを止めて、止まり、
 時折、空を仰ぐと、

 悲しそうな目を、する。

 思い出したように、ぽってりふくれたくちびるに
 薬用の白い紅をひき、くちびるを合わせる。

 その姿が、愛しくて、儚くて。

 また君は泳ぎ始める。
 そうやって、君は前に進んでいき、
 どんどん赤く、熟れていく。

 『君はまだおんなのこだから・・・』

 なんて言ってるうちに、僕は君の姿に触れられぬようになって
 君はいつのまにか、おんなのこではなくなって。

 君は泳ぐ。暗い海も、真っ白な海も。
 そうやって、君は前に進んでいき、
 どんどん赤く、熟れていき、


 ――そして僕を、忘れるんだ。

 僕が君を忘れる前に。
 君が僕を、忘れる前に。

 たったひとつの、言の葉を。 
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