わだつみの木/アオゾラ誤爆
一人の旅人が、小さな舟で、川をくだり、終には海へとやってきた。
舟の上には、本と、万年筆とノート、わずかな食糧、そして旅人に似つかわしくない、毛足の長いつやつやとした毛布がのっている。時計は持っていないが、日はゆっくりと傾き、じきに暗く、寒くなるだろうと思われた。旅人はある友人のことを考えた。友人のことを考えながら、ノートを一枚破り、彼に宛てて手紙を書きはじめた。かつての友人へ、あるいはかつての彼自身に向けた、いくつもの言葉が降りてくる。
その間も、舟はしずかに進んでいく。もはやここは川ではないのだから、上から下へ行くでもない。只、波のゆれうごくその流れに、すべてはゆだねられていた。
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