ユミ首/
 
水性絵の具みたいな夜、アパートの窓に猿の顔が立ち上がってきて男の顔になったり女の顔になったり女の子の顔になったり好きだったユミちゃんの顔になったりオカンやオトンやオトウトやしまいに俺の顔になったままピッタリ微苦笑を浮かべ始めた。俺はカップ麺を啜りながら俺の顔と思しき猿の眼球の光彩を睨み付けているのだが猿は決してその笑いを崩さないので殴ってやろうと窓を開けてみるとやっぱり笑っている。夜気に当てられて冷えた生首が空中に浮きながら白い息も出さずにやっぱり浮いているのだ。窓の向こうでは、管理人の生やした植物の群れ群れがその猿首を取り囲んでいる。処女の膚みたいな月明かりが猿首越しに俺の部屋に入り込むのだが陰
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