桃。/
凍湖(とおこ)
せんぷうきが ゆっくり 室内を見回し
ざわざわ うなじを撫でる。
そとはかんかん照りで
けさ干した毛布がベランダで揺れる。
さっきから
赤い目をしたコバエが、しつこく小指にとまるので
わたしは熟れた桃にちがいない。
ほほのまあるい曲線に
金色の産毛、ビロード。
呼吸、なだらかな運動。
ずっと、待っている。
わたしに包丁を刺しいれ
切り分ける、爪を。
わたしにとどめを刺す指を。
ぐずぐずに熔けてしまうまえに。
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