古くからの漁法を使って/草野春心
 
  テナガザルが白い顔をひきつらせて けらけらと笑っているような
  摩訶不思議な雨が きょうは降っていた
  いたるところで石を打ち 草を濡らし 心をかなしくして
  きのうの朝日がひとしれず 残していったぶとうパンの匂い……
  それは消えるだろう
  壇上で振り回されるか細いタクトだけが あなたの
  行く末を闇のむこうに示している
  けれども結局、それもまもなく消えるだろう
  古くからの漁法を使ってわたしは言葉をとらえる
  「山茶花」「おはじき」「つま先」「レミング」
  「甜菜」「海綿」「混沌」「雪解け」
  「ブラームス」「のどかな町」
  「あなた」
  「……あなた……」
  あしたの影を追って ピアノの音があるいている
  その姿をわたしは
  見つめている
  聴いている
  わたしたちがあこがれてやまない、
  「夢……」それだけは けっして消えないだろう
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