晩鐘/風船
君は、黒い影が辻を横切ると言う。吸い寄せられる鉛色の空の下に。何処か北欧風の街の錯覚なのだ。私は、鈍い光線に梢が青くなって震えているのを見た。私はあのモズの震える舌が欲しいと言ったのが間違いだった。どこから来るの?足元から這い上がる音は。空が落ちてくる。いや、君が空から私を突き落としたのだ。30年余りの生活を、砕いて撒き散らす君。私はいつも不安だった、君はそれ以上に不満だった。石畳の北欧風の街路に万華鏡のように飛び散った意識を拾い集めるのは私だろうか。あの幼女の胸に突き立てられたナイフのように、君は私の背中を切り裂いていく。聞いてい給え。憎しみという愛の陰影の苦しみは、死者の祭礼の儀式のように鈍く重苦しい。もう私を求めるのは止めなさい。言えば言うほど、声が体を引き裂いていく。モズは誰を求めているの?シワガレタ不気味な声で、空は街を押しつぶしている。
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