兵蔵さん/ ひより
兵蔵さんのお顔を 息子さんは知らない
息子さんは知らないのだから お孫さんは全くわからない
お名前は 存じております
この街の 開墾のために入られて
のちに
戦地へと向かわれた御方です
戻られたそうですが
まもなくお亡くなりになられたとのこと
その時 息子さんは3歳でした
今
息子さんは 兵蔵さんの歳を有に越えまして
思うところの深まりを覚えれ
お仏壇の前に静坐され
お孫さんへ
語り始めようとしたの だけど
お孫さんの胸で つまる
☆
思い出のない 悲しみは
ある筈のない 思い出をかきたてて
無くも 有るのだと
語りを残す
父
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