ゆく秋に/月形半分子
私にとって秋は蟻ほどに明確な季節ではありません
私にとって秋は蜂ほどに運命的な季節ではありません
私にとって秋は鈴虫ほどに激しい季節ではありません
今朝。私の手のなかであまりに柔らかく容易くかまきりが死んでしまったので、私は日長一日、かまきりを探しに行ってまいりました。ご存知でしたでしょうか。かまきりの体は死ぬといっそう緑が深まり、まるで絵の具に塗られたように美しく光るのです。けれど、私には生きているかまきりが何よりも美しく思えます。特にあの焼け付く陽光のなかで、振り上げる鎌ごと獲物の正面に向かう強く尖りきった錆の浮いた緑が。明日も探しに行かねばなりません。明日が駄目ならまたその明日も。またその明日も。今朝私の手のなかで死んだかまきりは私の秋。秋が私にとってただ美しいだけの、さりゆく季節だなんて。
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