沈没/月形半分子
私たちは、壊滅したデパートのビルの地下へと海を見に来ていた。崩れた天井が手が届きそうな所で踏み止まっている。陥没や隆起の激しい足元には、黒い藻のようなものが生え、その隙間から切れ切れに見える白線が唯一ここが以前地下駐車場だったことをしるしていた。地下は地盤沈下で底が崩れ、地底へと深く傾斜が続く。その暗い奈落から、潮はゆっくりと呼吸するように寄せてきていた。その息には生き物の匂いはない。黴と埃くささだけが鼻をつく。白線を無視して私たちは歩いた。地下は、暗く静かだった。陽に照り付けられては、炙られていくコンクリートの鳴る音も、ここまでは届かない。
「ここなら、ゆっくり話しが出来るだろう」
男の
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