累卵/神山
あそこの靴屋は
きれいなかたちのかなしみを売っている
こどもに蹴られて傷んでいた
ひろいあげて
ショーウィンドウにふたつ
つみかさねた
朱欒の実
黄昏どきは
半透明の落葉とおんなじ
つめたい窓に
押しつけた瞼が
かさかさ睫毛を踏んで
くらい路地の葉脈はどんどん
かぼそく透けていくのだ
夜ふけ
サイレンの左折
最上階までたちのぼり
あれは誰のとゆびをさす
曲がり角の防波堤できえた
あそこの灯台は
きれいなかたちの殺意を照っている
鳥に摘まれて傷んでいた
ひろいあげて
波間にふたつ
つみかさねた
卵
ひとの泣くときにわらう
決死の獣は
冴えに冴えた目で
獲物の限りをみつめ
ふいの翳りのいつくしみで
かはたれどきに
何も見ないでみうしなう
逃がしたさきの
じぶんの飢えをくらっていくのだ
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