画材/月形半分子
私、色鉛筆で塗られたかったの
街の一角でペンキ塗り立てで真新しく光る少女が歌いだした
歌声は小さく恥ずかしそうで
振り向く私に少女が、そっと微笑む
続けて、そう私は頷きで伝えた
看板のなかの少女は歌を続けた
私、色鉛筆で塗られたかったの
青い空に、白い雲が薄くひろくたなびきはじめたら
夏の野原に、風が鈴をならすようにやさしく花を揺らしはじめたら
それは誰かが色鉛筆で世界を描きはじめたしょうこ
コットンのような画用紙を、ほら誰かがやさしい指で撫でているわ
サラサラと音が聴こえてくるたび
私、色鉛筆で塗られたかったと思うの
ねえ、そこには、母さんが手作りしてくれたお人形のような私がきっといるのよ
私、色鉛筆で塗られたかったわ
少女が歌い終わると、私はそっと歌の後を続けた
私、水彩絵の具で塗られたかった
私の低めのアルトのせいで歌が古臭く聴こえるけれど
少女は私に続けるように頷いてくれた
私、水彩画で塗られたかった
雨が降るたび色が滲んでも、泣いて色がとけだしても
渇くたび、新しい色が塗れるように
と。
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