秋/月形半分子
 



残暑の厳しい日のこと。古本屋へ行ってきますと断りをいれたら
家の者が、ああ、あの分かれ道だねと言う
不思議なこともあるもの
分かれ道とは曼珠沙華のことではなかったか
伝統工芸品のなかから抜け出してきたような藤棚に
若い萩が揺れる道を行く
やぁ、この藤も枯れたなら、棚下によく陽が当たるようになるのでしょうねと
遺族のように白い死者を抱え合う蟻に声をかけてみる
彼らが死んだものの手足をどうしているのかを見ようと顔を近づけると
ふっと空蝉の体温が私の体を走り抜けた
あぁ、今年最初の秋風がふいた

淋しがり屋が一人になりたがる理由はなんだろう
伝統工芸品のように漆塗
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