あの日覗き込んだ照準器の十字架Destiny/北街かな
 
たはずなのになんて叫びたくなるような過去が、そんなにたくさん、空を埋め尽くすほどあるものだろうか。美しい空を塞ぐほどのヘリを飛ばして、ビリビリビリと消したい過去をプロペラカッターで八つ裂きにして地上を紙吹雪の豪雪で覆ってしまうほどの過去なんてものが、あったというのか。そんなことより僕はいま宙を扇風機のように回り落ちている。これからいったいどうなってしまうのだろう。
 僕とともに地上へ落下しているガスマスク少女は、僕に向かってはっきり右手を伸ばしながら、左手で太い縄を引っ張ってリンゴンと祝福の鐘を鳴らしている。僕がこれから恋をするのは、もしかしたらこの右半身の彼女だったのかもしれない。
 地上から飛んでくるチョコボールがアルミホイルを脱ぎ捨てながら僕の口のなかに飛び込んでくる。
 こんなありふれた味でも、まるで奇跡のような甘さに思えたのだ。

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