白い壁に手を/番田 
 

こうして書いていくことだけ
特に 思うことはない
寂しさを紛らわしたいだけ
そう思っていた


そう思うことだけ
過去の自分をうち消していく
得られるものは 何もない
無機質な職場で
いつもそんなことばかり 考えていた
冷たい風が吹いている
ここで立ち止まるべきなのか
それとも 走り出すのか
あの橋を渡りたいと
夏の日の記憶を見ていた
コーヒーの匂い
でこぼこな 遠くに見える新宿の風景


角で紹介されたところはおいしくなかった
中華街を歩き回る夜
きっと中国人の望む店なんだろう
というよりもむしろ
会社を辞めて
友達はもういないのだと気づいて
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