想像上の動脈/北街かな
 
らを当ててみても、あのときあの人が流していた液体に触れることはできない。

涙とか、血だとか。
そういった懐かしくてあたたかいもの。

押し黙った都市の空中を赤い橋が交差し、あらゆる屋上とフロアを繋げている。
都市をみなぎらせ動かすものは、すでにそこを通らない。
息絶えた都市の動脈に、血液が流れていく光景を想像しているんだ。
いまだに希望を捨てないで、月を目指す好奇心旺盛なウサギたちが橋を渡っていく。ぴょんぴょん。破れた蝶々がチカチカと触覚を点滅させて、へろへろとその後を追っている。ぴーひょろろ、誰かがのんきに笛を吹いていた。
屋上のウサギたちは押し重なりあって天を目指して、跳ねて、ロケットのものまねをしている。
僕は空に昇れない。
あのひとみたいに血液を流せるようになるまで、どれくらいの砂を飲み込めばいいのかもわからないんだ。

街は、砂に埋もれていく。
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