廃屋/葉leaf
 

建築の生み出すリズムは移動する目に心地よい
そのリズムが絶頂を迎えるころ
私の体に驚きを点ずる廃屋があった
塀は義務に反抗するかのように崩れ落ち
庭木は空間をまさぐるかのように枝を伸ばし
草は背徳的な自由を味わうかのように生い茂る
真昼の旋律に忍び込んだ大きな不協和音
都会の正義に異を唱える湿った反逆者
人の不在が余りにも黒々しく存在して
家屋は人が今そこにいると嘘をつき続けている
放置という何の色合いもない行為が
つぼみとなり花となり種となって
こんなにも重く実ってしまったのだ
だがこの荒れ果てた邪悪さには罪がない
自然が自然に到達するこの邪悪さは自然そのもの
不作為の積み重ねがもたらす堕落はただの虚無
自然な虚無としての廃屋がなぜここまで悪であるのか
廃屋が悪なのではなく
廃屋を悪とみなす私が悪なのだ


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