それからはこぐまのサーカスばかり見て暮らした/伊織
夫は現業職であった
年を追うごとに疲労を取るための時間が必要となった
上の娘はキャリアであった
特別休暇はあるにはあったが行使するのは困難であった
下の娘は学生であった
結局就職は諦めたのだが精神的に不安定となった
かくて
一家の母であった人は高台の家へと送られた
市では一つのその場所に
足繁く通う人は思いの外多くない
せいぜい週に一回
良くて二回
汚れ物と新しい衣類の交換
それと
ほんの些細な罪滅ぼし
代わりによく訪れるのは
ボランティアの学生と
幼稚園や学校の子どもたちだ
学生は善意と熱意を持って
子どもたちは素直な感性を持って
接してい
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