雑踏の中で/葉leaf
言葉なんて要らない
あんなにも人を動かす言葉なんて要らない
街のさびれた一角の
小さな自転車屋の店内で
カンカン音を立てながら工具で自転車を直す
あのおじさんの鋭い技術が欲しい
道徳なんて要らない
あんなにも人を行儀よく振る舞わせる道徳なんて要らない
一面に晴れた野原で
少年と少女がかけっこをする
少女が転んで少年がからかう
彼らの間にある生まれたての呼応が欲しい
芸術なんて要らない
あんなにも人を感動させる芸術なんて要らない
会議室のホワイトボードに
様々な文字や図が描かれては消され残された
そしていまや夕日だけが照らしている
その文字や図に込められた熱気が欲しい
宗教なんて要らない
あんなにも人を高めてくれる宗教なんて要らない
どこにでもある教室で
さりげなく出会って言葉を交わし
少しずつ親密さが増していく
その愛にも恋にも至らない二人の想い合いが欲しい
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