名月の下で/砂木
でも今日は満月に照らされて かすかに滲む
父さん 骨になっても同じ月をながめている
拝んで叫んで 母と父の話をし続けて
やっと最近気づいてきた事
父は死んだらしいという事
こうも受け入れられないものだとは思わなかった
安らかに眠りについて欲しいのに眠らせないのは私だ
私が父を死なせない 死なせる事ができない
叫んで揺すって 死とはいったいなんであるのか
さっぱり理解する気がない
ごめんしてけれ 父さん
いまだに 死ぬなとしか言えない
病気で死ぬ事がわかっていたので言えなかった
いい加減な嘘でごまかし 医者に死ぬと言われたけど
直るようなそぶりばかりしていた
あまりの苦しがりようを見て なおさら言えなかった
死なないでと言う言葉が 父を安らがせない
いつか私も逝く時まで 待たせるわけにもいかない
会いたくても まだ死ぬわけにもいかない
苦しみは終わった どうか安らかにと思いつつ
私はまだ父を死なせられない なんとか ごめんしてけれ
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