一方井亜稀詩集『疾走光』について/葉leaf
 
 あるいは
水槽の中から眺める部屋もまた水槽である
遠くを見たがる両の目も
捲る本の文字も
手渡される
みんなみんな
白いページに丁寧に
並んでいた
光だった
       (「夏の光」)

 ここに至ると、もはや一方井は単に歴史を「記す」作業をしているだけではなく、積極的に歴史を「創る」作業をしているように思われる。詩を書くことは、公的かつ規範的に定められた物語のテクストを作ることではなく、自ら公的な場に問いを発していく個人史を書くことであった。だが、そのような上位システムとしての個人史は、それ自体を一つの下位システムとして、新たな上位システムが創発するために運動の場を設定
[次のページ]
戻る   Point(1)