すべてを書きたかった/栗山透
 
5月も下旬だというのにとても寒い日だった
時刻は19時をまわったところで
吉祥寺はまもなく夜になろうとしていた
駅前にはたくさんの人がいる
僕は麻で出来た紫色のストールをぐるぐるに巻いて
冷えびえとした風から身を守っていた

とても信じられないことだが
そこにいるすべての人たちが
なにかをじっと考え込んでいた
通り過ぎていく人たちの瞳を見ると
思考の断片がちらりと窺えるような気がした

僕は仕事がおわったあと
あてもなく吉祥寺の街を歩いていた
夜はますます近づいてくる
遠くのほうに、
小さな三日月が浮かんでいるのが見えた
三日月は一瞬だけその姿を見せると
すぐ
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