地下鉄/佑木
 
静かな失望が黒色の気泡を上空へと沈めるころ

空席に向かって話かけるひとがいる

ちいさな声で とぎれ とぎれ
隣の空席に一生懸命 生きるための説明をしている

いずこの街にも聞こえてくる哀しみよ

冷たい視線で距離をとり 眺める女子高生たちは 
けげんそうに好奇の沈黙を投げる

冷笑のなかに走行の痛みが流れる

吊り革にぶら下がる疲れた者は

彼女等の視線を遮ろうと
そのあいだに入って一歩踏み出す

電車はいつもどおり終点へと急ぐ

生きるための説明は

終着点まで 誰もが 何の説明もない
出発点と同じように


吊り革にぶら下がる 疲れた者は
窓ガラスを流れるあなたの風景を心に描く

無関係を装うこの地下鉄が ぼくらを揺らしながら

平凡という宇宙の底に 黒色の気泡を沈めてゆく
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